01-5.今後の展望

  1. そもそも「デザイン思考」とは?
  2. デザイン思考が近年の日本で注目されている背景
  3. デザイン思考の“作法”について
  4. デザイン思考の実現の難しさと課題
  5. 今後の展望

それぞれの専門能力をもちつつ、互いの領域を侵しながら本来の想像を。

ー「デザイン思考」の今後の展望は、どのようになっていくと思われますか。

櫛:僕らの学校は産業界にインハウスのデザイナーや、商品開発レベルの研究開発などをするエンジニアといった専門家たちを輩出しています。今までみたいに組織が歯車のようにうまく動いていた時代は良かったのですが、今後、専門家たちをシャッフルしなくてはいけないというときには、今までの狭い専門性だけを身につけた人たちはそのままでは生きていけません。
そういうなかで我々が今やろうとしているのは、専門性を身に付けつつも、互いの専門領域を侵し、または共有するようなディスカッションができるスキルだとか、そこにおける手法をかじっている人を育てることです。


今、取り組んでいるデザインラボ※3については、そういったプロジェクトをたくさんやっていこうとしています。企業からもらったテーマを、大学でデザイン教育をしている人や学生を合わせてシャッフルしながらやっていくことによって、エンジニアも入ったりして、そういういろんな混合したなかでの経験といったものが、かなり濃い形で提示されるので、意識がだいぶ違ったものになるのではないかと期待しています。

※3KYOTO Design Lab.・・・京都工芸繊維大学が2014年7月から立ち上げた新しい試み。世界中から招いた一流のデザイナーや研究者が文化都市・京都に滞在し、プロジェクトに協働するパートナーとともに、都市の再生や持続可能性、高齢社会における快適な暮らしをテーマに、デザインの実践による課題の発見と解決に取り組む。櫛先生はデザインファクトリー長を務める。

ーアメリカでは企業の中にプロのエスノグラファーがいるということですが、日本では今後求められるのはどのような職能の人なんでしょうか。

櫛:バックグラウンドとして、専門性は同じように持っていてほしいなと思いますね。「プロのデザインシンカ―」っていうのが一番胡散臭いじゃないですか。だから、それぞれの表現であったり、設計能力であったり、そういう専門性は高く持っていてほしいなと思います。それを活かしながら、他者と一緒にチームを組めるということが強力なんじゃないでしょうか。意外と文化が違うと会話ができないんですよね。


インタラクションデザインという2つの専攻の学生が一緒に行う授業があるんです。ほぼ同じ偏差値で、同じような試験受けて、しかも同じ理系で、情報工学課程と造形工学課程とに入って、4年間過ごすじゃないですか。もともとは同じような高校からきているのに、4年間終わってインタラクションデザインの授業で一緒にチームワークをさせると、もう会話すらできないんですよ。文化がガチガチになっちゃって。デザイナーでもないのにデザイナーっぽく振る舞ったりだとか、『問題を見つけろよ』っていうと、『いや問題を与えてくださいよ』っていう学生がいたりだとか、とにかく全然違う。教育が人の方向性を決めているんだなというのがよくわかるので、そういうのをシャッフルしながら本来の創造をさせる、という経験を大学院ではさせないといけないなと思っています。

ー教育の話だけではなく、やはり根底にあるべきは、本来の創造なんでしょうね。それを組織の中でできるか、できないかで今後差が出てきそうですね。

櫛:そうですね。本来の自然な形での創作活動を束縛なくできるということが、日本には特に必要なんじゃないでしょうか。

ー本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

2014年9月1日(月)
京都工芸繊維大学大学院 研究室にて


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