01-3.デザイン思考の“作法”について

  1. そもそも「デザイン思考」とは?
  2. デザイン思考が近年の日本で注目されている背景
  3. デザイン思考の“作法”について
  4. デザイン思考の実現の難しさと課題
  5. 今後の展望

プロジェクトやユーザーに、どれだけコミット出来るかが重要。

ー「デザイン思考」におけるプロセスを成功させるポイントは何でしょうか。

櫛勝彦氏(以下敬称略):上位概念としては、「コミットメント」だと思います。プロジェクトに対して相当熱が入ってて、没頭できる状況の人は昔からやっていることなんですけどね。まず、プロジェクトにコミットできるかということと、自分のターゲットユーザーにコミットしているかということ。コミットしようとすると、やっぱり接触して生活を見たり、話を聞いたり、そういうことがすごく大事になります。手持ちの情報やスキルで何かしようとするのがいけないという感じですね。

ーユーザーをいかにフラットに理解するかということが大事だということですね。商品開発の美談では、自分が欲しいものを作ったらヒットしたというものがよくありますが。

櫛:たまたま自分とユーザーが近ければ良いですよ。趣味性の高いゲーム機やスポーツカーだとか。ある意味、自分が趣味でやっているようなことは強みになりますよね。最初は好きじゃなかったものに対しても、それくらいのめり込んでいったときには、プロジェクトにコミットできる良い状況になっていると言えると思います。


でも、大事なのは組織的にそういうことができるかどうかですね。たとえばハーレー・ダビッドソンは一時期本当に死にそうになったけど復活しましたよね。ユーザーグループを上手く組織化して、会社とのうまい関係を創りだしました。そういうユーザーにコミットする仕組みみたいなものを継続的に持っていくというのも大事だと思いますね。趣味性の高いものだからできたという部分ももちろんあるとは思いますが。


ユーザーを大切にし、ユーザーと成長していく感覚や、生の声を聞ける状況を常に作っていることが重要だと思います。ユーザーが見えれば、デザイナーやエンジニアも、その人たちを裏切ることはたぶんやらないでしょうから。

ーユーザーの声を聞くことで共通の目標を持ち、部署を越えて交わっていきたいという欲求はあっても、それがうまくいく会社とそうでない会社があるのはなぜでしょうか。

櫛:会社の中のいろんな人が共有できるメディアが必要だと思います。媒介するメディアがないと、価値観など見つけたことを共有できません。そういう意味では映像は、勉強があまり必要なく、見た人がわりと似たような意味を見出すという利点があると思います。僕らがやっているようなビデオを使ったやり方は、コミュニケーションをする上であまり齟齬がないメディアです。ビデオ素材は編集の工夫が必要だというのはありますが、ディスカッションをする上で共有できる中心的なメディアかなと思います。

あと、皆さんよく使うのがポストイットで、キーワードを貼り出すやり方ですよね。多様な人が入ってきたときには、そういうツール群が必要になるのではないでしょうか。
また、どうレビューするかというのがすごく大事です。何となく雰囲気的に共有できた場合でも、もう一度図式化したり整理する必要はあるでしょうね。そこでは、少しファシリテーターであったり、まとめ役の経験が必要かもしれないですね。

ーレイヤーを整理するといったことですよね。そういう意味で、先生の手法の一つである「カードファミリー」※2が大事だと思うのですが…。あれは理論的にはどういうものなのですか。

櫛:説明的になりますが、いわゆる二次解釈でしょうか。
一次解釈は、みんなで『こんなことがあったね』『こんなふうに分類されるね』というようなことをして、いろんな人の意識レベルにあがっていることを一応整理するというレベルで、実はそこには「本当のニーズ」はおそらくありません。
『そういうことがあるんだね』ということが共有できるので必要なのですが、その上でやっぱり、そのもう一回深く考えてみることが大事です。『一度整理したけど、どうもこのカテゴリーではおさまらない本当のニーズがあるんじゃないか』ということを一人一人が考えてみる。それがカードファミリーのフェーズなんです。
だから、そこでは洞察力だとか慣れだとか、人の見つけてきたものに対する理解力があるかだとか、それを使って仮説を組み立てる能力があるか、といったことが必要になってきます。慣れた人たちがやると、最初の一次解釈のマップに大きな問題がいくつも含まれていたりして二次解釈が必要なかったりしますが、多様な人が行う上では、一つ一つステップを踏んだほうが良いと思います。

※2 「カードファミリー(法)」・・・分析工程における潜在ニーズやテーマを抽出する手法のひとつ。観察とインタビューから得た気づきをまとめたマップから、そのまとめ方を超えるカタチで、さらに深い新しいキーワードを抽出していく。

ープレデザインのプロセスでテーマがいくつか出てきた場合、絞っていくのが大事なのでしょうか。全部叶えるようなものを作ろうとすると総花的になってしまう気がするのですが。

櫛:ええ、でも複数のテーマを包括できるキーワードが出てくる可能性は大いにあります。だけど、そこに行くためには2つのアプローチが必要だとか3つのアプローチが必要だとか。テーマを包括してひとつのコンセプトとして成り立つんだけど、それぞれのデザイン要素というか、ソリューションはアプローチがいくつかないといけないといったことが出てきたりとか。そういう構造化がきちんとできるということが、実際の設計をする前に必要になってきますよね。

ー包括のさじ加減の程度が難しいですよね。偏っては良いものは生まれないですから。

櫛:でもやっぱりゴールとしては、包括的なものがユニークだっていうことが一番すごいんですよ。だから、そこを目指さないといけないなと思ってますけどね。複雑で難しいプロジェクトの場合は、「いくつかのテーマが出ました」というレベルでおちる場合もあるけれど、理想的にはやっぱり「こういう大きなフレームが出ましたね、これ自体今までないですね」というレベルに持っていけると一番良いんでしょうね。

ー出てきたテーマを記述で共有する場合もありますが、共有の仕方は毎回やり方によって違うものですか?

櫛:違うでしょうね。でも結局、概念的なものを視覚化するというのがすごく大事です。概念図を示すことで、担当者の方々も、『ああ、そうそう!そういうことなんですよ!』みたいに腑に落ちるというかね。絵にするかダイアグラム的にするかは別にして、視覚化することは、やっぱりまとめとして必要じゃないかなと思いますけどね。

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